猫がつないだ記憶

十数年前のこと、葉山にある写真事務所でアシスタントをしていた頃、毎日の朝の仕事は30数匹もいる猫たちに朝ご飯をつくり、ボウルを新しい水にかえて一番陽当たりのいい場所、猫部屋の掃除をすること。
ひと段落したところでようやくボスたちにコーヒーを入れ、時には朝食をともにする。
もちろん仕事なのであわただしくもあり、のんびりしたそんな毎日を送っていたのでした。
それはそれで楽しいながらも大変な日々でしたが、今の自分の仕事や生き方に大きな影響を与えてくれていることは確かです。
仕事中でも具合の悪そうな子がいれば動物病院にいくし、撮影の日だって中にいてもいい猫、外に遊びに行っていてもらわなければいけない猫、とあれやこれやと出てくる訳です。

そんな猫屋敷の中でも特に人なつこく、アイドル的存在だったのがポチでした。
このポチは2代目ポチ、であって先代のカリスマ性を引き継ぐものとして若いながらも将来有望と一目おかれていた猫だったのです。
猫たちを撮った写真集でも幼いながらも表紙をかざった経験のある、フォトジェニックなポチは、その後ミュージシャンである山田稔明さんにCDのジャケット撮影の縁から里子に貰われていったのでした。

思い返してみれば、大学を卒業して右も左もわからない状態で、猫のご飯をつくるところから始まった社会人としての人生。
その毎日に感謝しつつも、仕事の失敗でこってりしぼられたり、海外ロケの留守番中ずっと面倒をみなければいけない時の病気の猫の弱さに心細くなったり、華々しい授賞式に何故か列席させてもらったり、生意気にも仕事のことでボスに逆らってみたり、波風が強すぎてそのあたたかさに気付かずに過ごしていたのでした。
その頃のことをフラッシュバックさせるかのように、貴重な体験として改めて自分に学ばせてくれたのがポチとの再会だった気がします。

その後は東京のデザイン事務所に転職し、いつの間にやら独立したりと葉山の海からも山田さんとポチたちとも違う時間の中で生活してきたのですが、ここにきて再び点と点が線につながってきたのです。

不思議なもので、また山田さん、ポチのコンビと出会ったのでした。
芝生でポチの写真展を、という運びになったのはもう今年のこと。
「ひなたのねこ」という写真詩集として上梓され、ゴールデンウィーク期間に発売記念にすべてポチの写真で芝生のギャラリー空間が埋め尽くされたのです。
ひなたのねこ展
山田稔明「ひなたのねこ」展
「ひなたのねこ」発売記念写真展

まさにひなたにたたずむねこのあたたかい空気がひろがっていました。

展示準備のいそがしい最中でしたが、山田さんの計らいでポチに会いにおいでと自宅に呼んでもらったのがこのとき。
ポチ
ひさしぶりすぎてなんて声をかければいいのかわからない親戚の女の子に会ったときのような気持ちでした。
うれしさより照れてしまってあまりたくさんさわれなかったのですが、もっと抱き上げていればよかったな、と思っても遅かった。

山田さんがポチの状態が良くなく、あちこち駆け回り久々のオフの時間を世話するのに費やしている、と話しには聞いていたのだけれど、ついに悲しいお知らせが届いてしまったのです。
今まで闘っていたポチと山田さんのことを思うと実はまだ本人になんと声をかければよいものか、連絡もできずにいる気弱さが勝ってしまっているのですが、ポチは山田家で育てられ、本当にしあわせな猫だったと思います。
海のそばで生まれ、都会に越しても庭のある家であたたかく、たくさんの人に愛されていた猫でした。
この幸せは山田さんの歌を聞いているみなさんがよく知っていることだと思います。

いまある幸せをたどっていくと、過去のいろいろな記憶が甦ってくるその不思議に、感謝の気持ちが生まれてきた一日でした。

2014年6月23日

芝生日記

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